Y・Kさんの体験談
ステップで学んだ体験談をY・Kさんからいただきましたので、原文のまま掲載いたします。
<DV加害と向き合い、家族との関係の再構築を目指して>
■はじめに
私は50代の男性です。2歳年下の妻とは職場で出会い、恋愛結婚しました。
大学生の長女、高校生の次女がいます。
2025年8月からステップのDV加害者更生プログラムを受講し、2026年8月に52回のプログラムを修了しました。
受講のきっかけは、自身のDV行為により、家族との別居が始まったことでした。
現在も家族との関係は再構築の途中であり、私自身も学びの途上にありますが、この体験談では、ステップとの出会い、学びと実践、家族との関係の変化、そして今も学び続けている理由についてお伝えしたいと思います。
■「あなたのしていることはDVです」
プログラムの受講を始める1年前、大学生の長女のことで妻と口論になり、私は大声を出すなど、威圧的な態度で家族に迫りました。その時、妻から「あなたのしていることはDVです」と言われました。
過去に暴力をしたことがありましたが、10年以上も前のことであり、その時の私は手を挙げていないのだから、DVではないと納得できませんでした。しかし、DVについて調べてみると、チェックリストに書かれている多くの特徴が自分に当てはまり、愕然としました。
妻からは、「次にDV行為をしたら離婚する。更生プログラムを受けなければ変わらないのではないか」と言われました。それでも私は、加害者としてプログラムに参加することへの抵抗感に加え、費用や期間がかかることも理由にプログラムには参加せず、書籍を読んで独学で学ぶことを選びました。その中に、ステップの栗原理事長の著書がありました。
それから1年後、長女との口論をきっかけに、私は再び怒りを爆発させました。「次にDVをしたら離婚」と言われていたため、「もう終わりだ」と自暴自棄になり、キッチンから包丁を取り出し、自分の胸に突きつけて、家族に「俺のことを刺せ」と迫りました。
身の危険を感じた家族が警察に通報し、私はそのまま自宅に戻ることができず、実家に身を寄せる形で別居が始まりました。妻から告げられたのは、「離婚を前提とした別居」でした。
■なぜ、あのような行動を取ったのか
別居直後は、「取り返しのつかないことをしてしまった」という絶望感に打ちひしがれました。
朝、目を覚ますと、見えるのは実家の天井です。自分がなぜそこにいるのか、現実として受け止めることができませんでした。家族のもとには二度と戻れないと思い、本当につらい日々を過ごしました。
一方で、なぜ自分が包丁を取り出すような衝動的な行動に出てしまったのか、自分でも全く理解ができませんでした。
「自分を変えなければならない」。そして、「自分が変わることで、家族の考えも変わるかもしれない」。そんな決意と淡い期待を抱き、私は藁にもすがる思いでステップの門を叩きました。
■「物事にはふさわしい時がある」
栗原理事長との初回面談で、私は、「1年前に妻からDVと言われた時に、ステップに来るべきでした」と後悔を口にしました。
理事長は、私に次のような言葉をかけてくださいました。
「物事にはふさわしい時があります。あなたにとっては、それが今だったということです」
「良い種を蒔けば、良い刈り取りがあります」
「幸せの扉は、1つ閉まったら、1つ開くようにできている。ここに来たことはよかったですね」
温かい言葉に涙が出ました。先が何も見えなかった私にとって、これらの言葉は大きな支えになりました。今でも昨日のことのように覚えています。
■課題であることにさえ、気づいていなかった
ステップで学び始めて、自分が多くの課題を抱えていたことに気づきました。
私は「こうあるべき」「普通はこうするものだ」という考えが非常に強く、自分の価値観を家族にも押し付けていました。自分が怒るのは、相手が自分を怒らせたからだと考える、他責的な傾向もありました。
また、マイナス思考でものごとを悪い方向に考えることが多く、不安や感情を自分で処理できず、妻に依存していました。
一方で、DVはいつも起きていたわけではありません。しかし、日頃の不満をため込み、ある時に爆発し、その後は反省して穏やかになるという、DV加害者が持つ典型的な行動パターンを繰り返していました。
しかし、当時の私は、これらが課題であることにさえ気づいていませんでした。
■まずは「1週間にひとつ実践」
「自分を変えなければ」という思いから、私はプログラムだけでなく、書籍やステップのフォローアップ学習会などを通じて貪欲に学びました。
しかし、聞いたことのない言葉や考え方が次々と出てきて、次第に学びの整理が追いつかなくなりました。
そのことをステップで話したところ、仲間から、
「点と点は、いずれ線になる」
「まずは、1週間にひとつ実践すればよい」
という言葉をいただきました。
すべてを一度に理解して変わろうとするのではなく、その週に学んだことを一つだけ意識して生活する。この助言によって、少しずつ実践に取り組めるようになりました。
■丁寧に生き、自分と向き合う
私が心がけたことの一つが、「丁寧に生きる」ことです。
食事をきちんと取り、別居直後はする気にもならなかったジョギングを再開しました。また、新たに日記をつけ始めました。自分の字が汚いことがコンプレックスだったため、ペン字練習にも取り組みました。文字を丁寧に書くことは、自分の気持ちを落ち着かせることにもつながりました。
また、毎週日曜日の早朝には坐禅会に通い、心を整え、感情に流されない自分になることを目指しました。
ステップで学んだ「よかった探し」にも取り組みましたが、マイナス思考が強かった私にとって最初は難しいものでした。しかし、日記にその日あった良いことを書き留めることで、少しずつできるようになってきました。
■「相手は最善の選択をしている」
ステップの受講を始めた頃、特に大きな影響を受けた学びが、「相手は最善の選択をしている」という考え方です。
どうしても「最善」とは思えない時でも、「相手なりに精一杯なのかもしれない」「そうせざるを得ない事情があるのかもしれない」と捉えることも教わり、相手の事情や背景を想像することができるようになりました。
また、「怒りのレベルの数値化」も役立ちました。イラッとしたり、もやもやしたりした時には、怒りがはっきりと意識できるレベルである「4」以上に上がらないよう心がけました。日記にもその時の出来事や考えを書くことでアンガーログとして記録し、後日振り返ることができるようにしました。
これらの学びを実践することで、少しずつ怒り行動が減ってくることを実感しました。
■家族が望んでいたのは、安全と安心
別居が始まった時、妻は、私が家にいること自体が恐怖だったと話していました。家族が望んでいたのは、安全で安心できる環境で暮らすことでした。
そのため、私は必要な時以外は自分から連絡しないことを徹底しました。ステップで学んでいることや、自分が努力していることを伝えることもしませんでした。
妻から、家や子どものことで必要な連絡が届いた時には、丁寧に対応することを心がけました。ステップの仲間には、弁護士を通してしかやり取りできない方も多く、自分は連絡ができるだけ恵まれていると思いましたが、やり取りは事務的で文章も敬語でした。「もう他人になってしまったのだ」と感じ、そのたびに落ち込みました。
また、別居から4か月が経った頃、家族との関係を築き直したいという思いを手紙にして送りましたが、返事はありませんでした。ステップで相談すると、理事長から、「すべてのことにはメッセージがある」という言葉をいただきました。
つらいことでしたが、「返事ができないこと自体が、今の家族からの返事なのだ」と捉え、催促することはしませんでした。
■家族だけでなく、自分も大切にする
家族との関係に進展がなく、先が見えない中、ステップの仲間から、次のような言葉をいただきました。
「自分が何を大切にしているかに気づくチャンスなのではないですか」
私が大切にしたいものは、まず「家族の幸せ」でした。自分にとって別居はつらいものでしたが、別居することで、家族には安全で安心できる環境を提供できていました。
それと同時に、「自分自身も大切にしなければならない」と気づきました。
私は、それまで自分を大切にすることを考えたことがありませんでした。むしろ、自分に厳しくすることこそが成長につながると考え、仕事でも結果を出すために、ひたすら努力してきました。その結果、家族を犠牲にしてきた面がありました。
ステップの仲間の言葉をきっかけに、「自己肯定感」や「自尊心」を高めることの大切さに気づいたのは、自分の生き方を変える大きな転換点になりました。
自分の存在そのものを認め、5つの基本的欲求の充足度合いをより意識するようにすると、それまで経験したことのない「生きやすさ」を感じられるようになりました。
■過去の自分と向き合う
自分を大切にするという考え方を学ぶ中で、「傷ついた自分を放っておいた」ことに気づきました。
幼い頃、父親から母親へのDVを目の当たりにし、自分自身も暴力を受ける環境で育ちました。怒りという感情をどのように扱えばよいのかわからないまま、大人になったのだと思います。
また、子どもの頃に、仲の良いと思っていた友達から仲間外れにされた経験や、そこから生まれた偽りの自信、他人を下に見る特権意識を持つようになったことにも向き合いました。
過去に向き合うことは、とてもつらい作業でした。しかし、自分の人格や思考がどのように形づくられてきたのか、そのルーツを知ることは、自分を変えていくために重要なことでした。
■10か月ぶりの再会
別居から8か月ほどたった頃、家族との関係に小さな変化が表れました。
妻とは、古くなった車の買い替えや子どものことについて電話で話す機会が生まれ、以前のような調子で話せることもありました。長女とも別居後初めて連絡を取ることができました。
そして、別居から10か月後、家族と再会する機会が実現しました。
離婚を前提とした別居だったため、私は厳しい答えを覚悟していました。しかし、家族から伝えられたのは、「同居も視野に入れて考えている」という、予想もしなかった言葉でした。
一方で、特に妻には大きな不安が残っていました。「受けた傷を、一生忘れることはない」とも話していました。
それでも、家族は、私が更生プログラムを受け、変わろうとしてきたことを前向きに受け止めてくれました。
私は、うれしいというよりも、その決断に対する感謝の気持ちでいっぱいでした。
■同居再開と、再びの別居
妻は同居への不安を抱えていましたが、私の実家での生活環境が悪いことへの同情もあり、子どもたちが妻の背中を押したことで、想定よりも早く同居が再開しました。
しかし、次女が精神的に不安定になってしまいました。私と顔を合わせることだけでなく、家の中で私の生活音が聞こえるだけでも、不安を感じる状態でした。
妻からは、「同居に戻るのが早すぎた。改めて別居することも考えている」と告げられました。私は「せっかく戻れたのに」「今度こそ離婚になる」「家を出てどこに行けばいいのか」と過剰に反応し、取り乱してしまいました。
10か月間ステップで学んだにもかかわらず、現実を受け止められない私の姿を見て、妻の不安はさらに強くなりました。家族の関係は、再び、先の見えない状況に陥りました。
■「今は、その時ではない」
改めて別居することは、当初の私には考えられませんでした。
そんな時、またしてもステップの仲間の言葉に救われました。「自分が幸せになるために、どうすればいいか」を考えてみてはどうか、と言われたのです。
私の望みは「家族が幸せになること」でした。しかし、今は私が家にいることで、家族も私自身も幸せではありません。それならば、私が家を出るべきだと決断しました。
別居中、実家で両親と暮らす中で、私は顔を合わせることや生活音に強い苦痛や不安を感じていました。その経験があったからこそ、次女が感じている不安を、自分のことのように理解することができました。
そしてこの時、リフレーミングの中でも難しいと感じていた「何でもあり」を、初めて使うことができました。
家族の意向を踏まえ、改めて6か月間別居し、その間に徐々に会う機会を増やした上で、同居に戻ることとしました。私はマンスリーマンションを借り、新たな生活を始めました。
「同居に戻ったのに、また6か月間別居なのか」と考えるのではなく、「私たち家族には、もともと1年半の別居期間が必要だったのだ」と捉え直しました。
拒絶されたのではなく、「今は、その時ではない」。家族との関係を再構築するために必要な時間なのだと考えることができました。
かつての別居では、この先どうなるのか全く見えない状態でした。しかし今回は、別居へのつらさよりも、執着を手放し、自分で自分の人生を選択できたという充実感がありました。
■52回はゴールではなく、新しいスタート
2026年8月、私は全52回のプログラムを修了しました。
しかし、修了は一つの区切りであって、ゴールではないと考えています。ステップのプログラムの基礎となっている選択理論を提唱したグラッサー博士は、人が本当に変わるには最低でも2年半の期間が必要と述べています。私自身も、むしろここからがスタートだと考え、ステップへの参加を継続することにしました。
学び続ける理由は二つあります。
一つは、自分自身の学びを深めるためです。
学べば学ぶほど、自分を変えることの難しさを感じます。また、感情との向き合い方にも、まだ課題があると感じています。学んだことを実践し、自分のものとして定着させるには、さらに時間が必要だと考えています。
もう一つは、自分の経験や気づきを誰かに還元したいからです。
私は絶望の中でステップに参加しました。今まで誰にも話せなかったことを、包み隠さずに語ることができるステップの場は、私にとって本当に貴重な場所です。
悩みを分かち合い、励まし合った仲間から、未来への希望と生きる力をもらいました。今度は、私の経験や気づきも、同じように悩んでいる誰かの役に立つことができればと思っています。
■今も、学びの途中
私はまだ、家族との関係を再構築している途中であり、ステップでの学びも道半ばです。
特に、傾聴や受容など、今も難しいと感じることがあります。
相手の話を聴くつもりでも、次に自分が何を話すかを考えてしまうことがあります。相手の意見が自分と異なる時に、そのまま受け止められず、すぐに解決しようとしてしまうこともあります。
それでも、ステップで学び始める前と比べると、自分の考え方や物事の捉え方は大きく変わりました。
以前は、「こうあるべき」「普通はこうするものだ」という自分の正しさを相手にも求めていました。今は、ステップで学んだ「正しさは人の数ほどある」と考え、相手には事情や背景があることを意識するようになりました。
また、相手の事情や背景に目を向けるためには、自分自身に心の余裕を持つことも大切だと気づきました。5つの基本的欲求をバランスよく満たすことを意識し、自分で自分をご機嫌にすることも、少しずつできるようになってきました。
家族が安心して一緒にいられる存在になるためにも、これからも自分自身と向き合い、一つずつ実践を重ねていきたいと思っています。
一人では、ここまで歩んでくることはできませんでした。
栗原理事長をはじめとするステップの皆さん、ともに悩み、学び、励まし合った仲間、そして、つらい経験を抱えながらも家族との関係の再構築に向けて前を向いてくれた家族に、心から感謝しています。
これまでいただいた多くの言葉や支えを忘れず、これからの自分の行動につなげていきたいと思います。