- NPO法人ステップ
52週通い続けた体験談
ステップのDV加害者更生プログラムに52回通い続けた Sさんから「私にとってのステップ」と題した手記を頂きましたので原文のまま紹介します。
ステップに通うことは不名誉なこと ステップで学ぶことは名誉なこと
DV加害者としてステップに通うことになったのは、どんな理由があるにせよ、大変不名誉なことです。なぜなら自分にとって大切な人たちを傷つけてしまった結果、そのようになったからです。 ステップは、DV加害者から妻を尊重できる人間へと、自分を変化させるサポートをしてくれる場所であり、大切な人たちを失った悲しみを、参加者同士が傷をなめ合う場所でも現実逃避する場所でもありません。それにはまず、DVという過去の自分の過ちに対して真摯に向き合い、反省することが不可欠となります。 自分を変化させるには、言い訳や愚痴は必要ないのです。
私がステップに通うことになった理由も大変不名誉なことでした。結婚19年目のある日、妻と子供たちは家を出たまま戻りませんでした。原因は長年に渡る私のDVでした。 私は妻や子供たちに対する支配欲が強いばかりか、自分の都合を最優先にして生きてきました。子育て、家事、そのほとんどを妻に任せきりで、夫は生活費さえ入れれば良いと考えていたのです。 しかし、妻は子供の成長と共に精神的に強くなり、生活費を入れること以外の役割も私に求めるようになりました。それでも私は何も変わらなかったため、絶えず夫婦喧嘩が起きるようになりました。夫婦喧嘩では私は自分の主張だけを通すために、妻を罵倒したり、発言を軽んじて馬鹿にするなど、一方的に言葉のDVを浴びせかけました。そこには妻を尊重する気持ちなど微塵もなく、私は夫婦喧嘩に勝ち、妻を屈服させることしか考えていませんでした。 そのような歪んだ夫婦関係で円満な家庭など築けるわけもなく、その先に待っている結果も予想できましたが、私は自分を変えようとはしませんでした。ちっぽけなプライドがそれを許さなかったのです。 やがて予想どおり、 妻と子供たちは私から離れて行き、私には人生最大の後悔だけが残りました。 そんな私を救ってくれたのが、ステップだったのです。
ステップでは、"3つのステップ"で自分を変化させていきます。 ファーストステップは、DVという過去の自分の過ちに対して真摯に向き合い、反省することです。セカンドステップは自分に生じる怒りの要因を突き止め、それをリフレーミング(物事に対する視点をポジティブに変える)によって、コントロールできるようになることです。サードステップは、大切なパートナーである妻を尊重できるようになることです。 ここまでが、"3つのステップ"となりますが、実は最後にフォースステップがあると私は考えています。ステップで自分を変化させることは、同時に人格をも高めることになり、やがて妻に限らずあらゆる人も尊重できるようになります。さらにそこから実りある人間関係が築ければ、職場に活気をもたらしたり、周囲から頼られる人へとさらに変化できるかも知れません。 「人を尊重する」という基本的なことを充分理解していない人よりも、"3つのステップ"を学んだ人の方が、それができる可能性が高いと私は考えます。ですから、ステップで学ぶことは名誉なことなのです。
最後に、ステップに通うことを検討している方に、卒業生の一人としてお伝えしたいことがあります。 ステップに通うことを決めたら、決して漠然と通わないでください。それではいつまでたっても不名誉なままです。しかし、「妻を尊重するために自分を変える」という強い意志と明確な目標を持ち続ければ、きっとステップで学ぶことは名誉なことだと気づくはずです。 学びの場では、栗原理事長やスタッフ、そして他の参加者の発言に注意深く耳を傾けてください。なぜなら自分の価値観が変わるだけではなく、今後の人生を大きく左右する金言が得られるかも知れないからです。一方で、自分の考えや過去の過ちも嘘偽り無くさらけ出してください。逆にそれらが他の参加者の光明となることもあるからです。参加者同士で学び合うことができることも、ステップの素晴らしい点の1つなのです。 また、自分を変化させるには必ず痛みが伴います。これは誰もが避けては通れない道です。時には家族を失った喪失感や孤独感にもがき苦しみ、時には同じ失敗を何度も繰り返す自分自身の不甲斐なさに苛立ちを感じることもあるでしょう。しかし、自分を変化させるには、それらを乗り越えて、螺旋階段のようにゆっくりと小さな成功体験をひとつひとつ積み重ねて行くしかないのです。 もちろん、私自身も気を抜くことなくさらに変化していきたいと思いますし、少しずつ会えるようになった妻や子供たちに、一生掛けて償いもしていく覚悟です。
ステップに通うことは不名誉なこと ステップで学ぶことは名誉なこと
初心を忘れずに、今後もこの言葉を胸に刻みながら、大切な家族と一緒に暮らすことを目標に努力して参りたいと思います。
最後になりますが、私を導いてくれた栗原理事長とスタッフの皆さま、励ましてくれた参加者の皆さま、本当にありがとうございました。 ステップ卒業生 S
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